不動産を所有しているシニア層は、ゆくゆくは配偶者や子どもに相続させたいと考えているのではないでしょうか。しかし、不動産は預貯金と違って分割しにくく、被相続人の死後に家族が揉めてしまうケースも珍しくありません。
そこで今回は、不動産物件の特徴や相続発生後の手続きの流れについて解説します。ぜひ参考にしてください。
不動産相続の特徴
不動産の所有者が亡くなると法務局で「相続登記」の手続きをして、不動産の名義を故人から相続人に変更します。
相続登記の期限は決められていませんが、登記によって所有者を明確にしておかないと、孫の代になって相続人同士が揉めてしまうことがあるので、できるだけ早めに手続きしておきたいものです。
被相続人が亡くなったら、不動産の所有権は遺言または遺産分割協議で決めます。遺言がある場合は遺言の内容が優先され、不動産を相続した人が相続登記の手続きをします。遺言がない場合は、相続人たちが集まって遺産分割協議をして、誰が相続するのか話し合います。
不動産の相続方法には以下の4つがあり、分け方についても話し合われます。(※1)
現物分割 | 1人の相続人が不動産を現物のまま相続する |
代償分割 | 不動産を1人または複数人が取得したのち、残りの相続人には代償金を支払う |
換価分割 | 不動産を売却して得たお金を相続人たちで分ける |
共有分割 | 複数の相続人が共有で相続する |
不動産は預貯金と違って分割が難しく、遺産分割協議では揉めることが多いです。しかし、遺言があれば遺産分割協議は不要になり、相続登記の手続きのときも戸籍謄本等が不要になったり、相続人がひとりで手続きできたりと、いくつかのメリットがあります。
不動産を所有している人は家族のために、遺言を作成しておいたほうがいいでしょう。(※3)
不動産相続の流れ
被相続人が亡くなったら遺言を確認し、公正証書遺言であれば検認の手続きをせずに相続手続きを開始します。公正証書遺言とは公証役場に行って公証人のもとで作成した遺言のことです。
遺言の全文を自筆して作成した自筆証書遺言や、作成したのち公証人のもとで保管してもらっている秘密証書遺言は、家庭裁判所に提出して検認が終わってから相続手続きを行います。
検認が終了し、遺言の内容に沿って相続手続きが行われたら、不動産を相続した人は必要書類を揃えて不動産の所在地を管轄する法務局で相続登記の手続きをします。遺言がある場合の必要書類は以下の書類があれば、相続人1名だけで相続登記ができます。
- 故人の出生から死亡までの戸籍謄本(改製原戸籍・除籍謄本)
- 相続人の戸籍謄本と住民票の写し
- 遺言書 (※4)
一方、遺言書がない場合は、遺産分割協議をして遺産の分け方を話し合い、意見がまとまったら遺産分割協議書を作成しなくてはいけません(※5)。相続登記の手続き時は、以下の書類が必要です。
- 故人の出生から死亡までの戸籍謄本(改製原戸籍・除籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本と住民票の写し
- 遺産分割協議書 (※6)
相続登記の手続きは複雑なので、行政書士や司法書士に依頼することも可能ですが、遺産分割協議書を作成したり、必要書類が増えたりすることで、相続登記が完了するまでどうしても時間と手間がかかってしまいます。
不動産相続においては遺言があるかないかで遺族の負担が大きく変わるため、やはり遺言はとても大切なのです。
不動産相続の一般的なケース事例
不動産相続でよくあるのは、自宅を相続させたいケースです。しかし、不動産が自宅1つだけだからこそ陥ってしまうトラブルがあります。
事例 | |
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被相続人 | 父親(母親はすでに他界) |
相続人 | 長男(父と同居)、長女(別居) |
相続財産 | 自宅(3,000万円)、預貯金(1,000万円) |
被相続人が亡くなった後、遺産分割協議を行い、長男は自宅に引き続き住み続けたいために自宅の相続を希望しました。しかし、長女は法定相続分である50%の相続を希望したため、預貯金の1,000万円だけでは不公平だと主張しました。
この場合は、話し合いをまとめるために次の3つの分け方があります。
- 長男が自宅を取得した後、現金1,000万円を長女に渡す
- 自宅を売却してお金に換え、遺産をきっちり2分割する
- 自宅を1,500万円ずつ共有で持ち、現金1,000万円を2分割する
1のケースは、長男が現金1,000万円を貯蓄から出さなくてはいけないために負担がかかってしまいます。2では総遺産を平等に分けられますが、長男が住む家を失ってしまうことになります。3は一見平等に見えるものの、長男や長女が亡くなった後は孫たちが不動産を共有することになり、売却したくても全員が納得しないと売却できない、固定資産税の徴収が困難になるなど、後々問題が発生します。(※7)
そこで、自宅を長男、預貯金を長女に相続するという内容の遺言をあらかじめ作成しておけば、トラブルを回避できます。長女は遺留分(法律上で最低限認められる相続財産)である総財産の4分の1を受け取っているため、長男に対して自宅分の相続を主張できません(※8)。長男は引き続き自宅に住むことができ、お互いに揉めることなく相続手続きを終えられるでしょう。
不動産を相続させるなら遺言を作成しよう
不動産は預貯金のように平等に分けられないので、相続人同士が揉めてしまうことがあります。自宅を配偶者や子どもに残したくても、話し合いによっては手放すことになってしまうかもしれません。
家族が不動産相続に悩まされないためには、遺言の作成が大切です。遺言があれば相続登記の手続きも楽になるので、不動産がある人はぜひこの機会に遺言の作成を検討してみましょう。
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