定年退職後に豊かな第二の人生を送ろうと思っていたのに、ある日突然心と身体にさまざまな異変が現れることがあります。なんとなく気力がわかない、常に不安を感じるなどの症状が出始めたら、老人性鬱の可能性を視野に入れてみましょう。
ここでは、老人性鬱に陥る人の割合や特徴、原因などについてご紹介します。
老人性鬱の特徴とは?若年性の鬱との違い
同じ鬱病でも、若年性鬱と60代以上の老人性鬱には症状の違いがあります。
まず、若年性鬱は気分の落ち込みや意欲の低下など精神的な症状が主に現れ、日常生活に支障をきたすようになることが多いものです。一方、老人性鬱は記憶力(物覚え)が悪くなった気がする、身体が思ったように動かない、などの症状が出ます。(※1)
老人性鬱は若年性鬱と比較して、目に見えて落ち込むといったわかりやすい症状が出にくい傾向にあります。
このような特徴から、老人性鬱は軽度の鬱や、ただの身体の不調と捉えられがちです。しかし、実際には鬱の症状が進んでいることもめずらしくないため、注意をしなくてはなりません。老人性鬱の場合は、年齢的にも認知機能が低下している場合が多く、特定の症状のみが強く生じることも珍しくありません。(※2)
どのくらいいる?シニア層における老人性鬱の割合と原因
香川大学精神神経医学教授の中村祐氏がラジオNIKKEIで語った内容(※3)によると、上図の通りに鬱病に陥っているのはシニア層、特に女性のシニア層が多いことが分かります。
各年代別の鬱病患者数の割合は上図の通りで、鬱病患者全体の中でシニア層が占める割合が多いことが分かります。
鬱病患者数と総務省統計局の人口統計(※4)から、10代~50代(7,800万人)の鬱病患者の割合は約0.81%、60代~80代(3,600万人)の鬱病患者の割合は約1.13%だと分かります。
老人性鬱になる要因としては、「ライフイベント」と「日々の生活のストレス」の二つ(※5)が大きく関わってきます。
シニア層は、退職による社会とのつながりの希薄化や身体の衰え、家族の介護問題など、これまでの人生では感じることのなかった種類のストレスを受けがちです。そのうえで、ライフイベントを通して定年退職や身近な人との別れ、死といった喪失体験の機会が多くあります。
シニア層の生活は、若年層の生活と比較して、何かしらの喪失体験と密接なつながりを持つ機会が多いです。こうした喪失体験が、環境の変化や日々のストレスなど、多数の複合的な要因と合わさり、老人性鬱をもたらすと言えるでしょう。
老人性鬱と認知症は症状に違いがある
老人性鬱の症状は認知症の初期の症状に似ています。そのため、判断が付きにくい場合もあり、認知症外来に訪れた患者の5人に1人は認知症ではなく、老人性鬱だというデータが出ています。(※6)
認知症とは違って、老人性鬱は抗うつ薬などで治療を行えば(※7)、治ることが多い病気です。そのため、老人性鬱だと感じたら早期に適切な治療を受けましょう。
ここからは老人性鬱と認知症の見分け方について説明します。
1. 症状の進行具合に違いがある
老人性鬱病のさまざまな症状は、比較的短期間のうちに現れることが多いものです。一方、認知症の場合は、症状がゆっくりと進行します。次々に異変が起きた場合は老人性鬱を疑いましょう。
2. 記憶障害の種類に違いがある
記憶障害(物忘れ)は老人性鬱と認知症のどちらにも出る症状です。ただ、老人性鬱の場合は物事が思い出せないことに加えて、ほとんどの人が不安を感じています。一方、認知症は軽い記憶障害から重篤なものへと変化していきますが、その過程で不安を覚えるケースは少ないです。(※8)
3. 自責の念を感じているかどうか
老人性鬱の患者は、自分の症状が周りの人に迷惑をかけているかもしれないと感じ、自分を責める傾向にあります。一方、認知症は症状が現れても、自責の念はないことが多いです。
老人性鬱はめずらしくない!冷静に対応することが大切
老人性鬱は誰もがなり得る疾患です。もし、自分の心と身体に異変が出たと感じたら、認知症だけではなく老人性鬱を疑ってみましょう。そして、家族に伝える・医療機関を受診するなど、早めの対応を心がけることが大切です。
「資料8-1高齢者のうつについて」
「平成20年10月1日現在推計人口」
「高齢者のうつ病治療を考える」
「老人性うつってどんな病気?症状・原因・対策・認知症との違い」