日本でもおなじみの名曲「スタンド・バイ・ミー」
「スタンド・バイ・ミー」は、アメリカの黒人ソウル歌手ベン・E・キングが1961年11月に発表した楽曲です。
黒人霊歌であった「Oh Lord, Stand by Me」という曲にインスパイアされて制作され、作詞と作曲は、ベン・E・キング本人とアメリカの作曲コンビであるジェリー・リーバーとマイク・ストーラーらによるもの。発売当初はビルボードのランキングで4位にまで登りつめるほどの大ヒットを記録しました。
元々はボツ曲だった!
「スタンド・バイ・ミー」という曲は元々、当時新婚だったベンが自分の妻のために作った楽曲でした。それも、ベンが1960年当時まで自身がリードシンガーとして所属していたR&Bコーラスグループ「ザ・ドリフターズ」の楽曲として書き下ろしていたものだったのです。
しかし、「ザ・ドリフターズ」での待遇をめぐってベンは担当マネージャーとの折り合いがつかず、「スタンド・バイ・ミー」を作った1960年にグループを脱退してしまいました。脱退の少し前、どうしても「スタンド・バイ・ミー」という楽曲を世に出したいという気持ちがあったベンは、とりあえずマネージャーに曲を聴かせます。
ところが、その場しのぎでしか聞く耳を持たなかったマネージャーからは「この曲は必要ない」と冷淡な言葉しかもらえず、そのままベンはグループを脱退しました。後に大ヒット曲になるとも知らずに、こんな冷たい言い方をしたマネージャーは本当にもったいないことしたといっても良いでしょう。
翌年の1961年にソロシンガーとしてデビューしたベンは、デビュー後の2曲目として「スタンド・バイ・ミー」をついに発表します。これがR&Bチャートで4週間1位を獲得するほどの大ヒットとなり、現代においてもスタンダードナンバーとして愛され続けています。
優しい空気感の漂う良曲でありながら、元々はボツ曲だったというのは驚きです。グループ在籍時のマネージャーはあまり先見の明がなかったのではと疑いたくなるほどですね。そうした人物に音楽の良し悪しの判断を任せてしまうのは危険でもあります。しかしながら、そんなことを押しのけて自分のスタイルできちんと楽曲を世に送り出し、大ヒットの功績を残したベンは、正真正銘のミュージシャンです。
ヒットの立役者、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラー
ジェリー・リーバーとマイク・ストーラー(通称:リーバー&ストーラー)は、ロック歌手として有名なエルヴィス・プレスリーの最大のヒット曲「ハウンドドッグ」や「監獄ロック」などを手がけたコンビであり、ロックンロールというジャンルの時代を先導してきたプロデューサーコンビでもありました。
彼らはベンと共に音楽業界において、いち早く黒人と白人の垣根を取り払ってきた存在であり(ジェリーとマイクはユダヤ系アメリカ人)、ロックンロールのみならず黒人音楽であるR&Bの世界においても大きな影響を与えてきました。当時はアフリカ系アメリカ人らによる公民権運動が起こっており、公平な権利が声高に叫ばれていた時代でした。
そんな時代の最中、音楽によって黒人と白人の文化の架け橋となったジェリー・リーバーとマイク・ストーラーがベンの「スタンド・バイ・ミー」を極上のポップスに仕上げることによって、多くの人へ届きやすい楽曲へ進化して後の大ヒットに繋がっていったのでした。
同名映画の主題歌として再ヒット
1986年、アメリカでとある映画が上映されました。その映画のタイトルは「スタンド・バイ・ミー」。そう、ベンの楽曲名をそのままタイトルに冠した映画です。
オレゴン州の田舎に住む4人の少年たちが、“死体探し”のために夏の冒険に出るというストーリーの青春映画で、様々な映画賞にノミネートされるなど、ここ日本でも大ヒットとなった作品です。
原作となった小説のタイトルが「THE BODY(死体)」でしたが、この作品で監督であったロブ・ライナーがホラー映画と間違われるのを避けるために、ベンの楽曲であった「スタンド・バイ・ミー」を映画タイトルとして使用したいと考え、楽曲のプロデューサーであったマイク・ストーラーへ相談。マイクはこれを快諾したところ、数日経ってから「テーマ曲にしようと思う」というロブからの連絡がありました。このことから映画の主題歌にも抜擢されることとなりました。
映画がヒットの成功を打ち出すと同時に、主題歌であった「スタンド・バイ・ミー」もリバイバルヒット。発売当初から25年ぶりに再び全米チャートのトップ10入りとなりました。
ベンは当初「自分の歌が使われている」とだけしか聞いておらず、映画の試写会へ出席したところ、映画のタイトルにまでなっていて驚いたそうです。また、映画のおかげでこの楽曲が人々に力を与えられるものであると再認識した、とも語っています。
世界中で愛される楽曲となった「スタンド・バイ・ミー」
ここ日本において、近年では中学校の英語教育の授業でも、題材として取り上げられることが多くなっている「スタンド・バイ・ミー」。優しいメロディとシンプルで切ない歌詞が、子供たちの感情へ訴えかけ、現代でも脈々と歌い継がれています。作曲した当時のベンは、この曲がここまで大きく広がっていくことを想像もしていなかったでしょう。発売から25年も経ってからリバイバルヒットした結果、世界中で愛される曲になっていくというのは、とても夢がありますね。