角川映画ブームを巻き起こした金田一耕助シリーズ第一作「犬神家の一族」

                    

「犬神家の一族」とは

「犬神家の一族」とは、1976年10月に公開された日本のミステリー映画です。横溝正史による同名の推理小説を原作とした映画作品であり、角川春樹事務所が製作、配給は東宝が担当しました。

監督は市川崑、主演は石坂浩二が務め、島田陽子、あおい輝彦、高峰三枝子、三國連太郎などの名俳優たちが揃って出演しました。

映画はその後1980年代頃までにかかる“角川映画ブーム”の初作品となり、市川崑(こん)監督と石坂浩二主演というコンビの“金田一耕助シリーズ”の第一作目でもありました。この映画の配給収入は15億6千万円の大ヒットを記録し、映画関係者や批評家、そして多くの観客から高い評価を受けて第1回報知映画賞作品賞を受賞するなど、名作として知られる作品です。

人間の怨念が渦巻くストーリー

舞台は昭和の那須。製薬王として知られた「犬神佐兵衛」が亡くなったことから、その莫大な遺産について相続問題が勃発します。

佐兵衛には3人の娘がいましたが、佐兵衛自身が親族と仲が悪く、遺産は遺言状によって血縁のない珠世という女性(佐兵衛の恩師の娘)へ全遺産を相続されることになり、さらに「佐清(すけきよ)」、「佐武(すけたけ)」、「佐智(すけとも)」という3人の息子の中から婿に選ばられたものに遺産を与えるという条件も遺言状にあり、これによって犬神家一族の血みどろの惨劇が始まっていくのでした。

こうした状況の中、事件を危惧した古館弁護士事務所に務める若林は、探偵の金田一耕助に調査を依頼。しかし、若林は何者かによって毒殺されてしまい、古館から改めて依頼を受けた金田一は、犬神家の遺産相続問題へと足を踏み入れていくことになります。

トラウマになりそうなグロテスク映像

映画「犬神家の一族」で一番話題に挙がることが多いのが、やはりリアルでグロテスクな映像描写でしょう。後のDVD版のジャケットにも使われている「水面から突き出た足」のシーンは、トラウマ級の強烈な印象を残しています。

他にも、不気味なマスク姿で登場する佐清がマスクをはぎ取るシーン、佐武が殺されて菊人形と首を挿げ替えられてしまうシーンなど、ホラー映画もびっくりの演出が多く、観客の絶叫を呼びました。

これらの猟奇的なシーンによって、ストーリーの世界観はよりリアルに再現され、映像への没頭感を演出していたのでしょう。

原作との相違点

「犬神家の一族」は小説が原作となっていますが、映画版と小説版では、所々異なるポイントが多く存在します。原作小説を知らないという人も多いのではないでしょうか。

そのため、ここでは映画と原作小説の相違点を紹介していきます。

まず、ストーリーの中心となる犬神家について。犬神家の事業は映画だと製薬ということになっていますが、原作では製糸業を行っていることになっています。また、犬神松子の琴の師匠である宮川香琴(こうきん)は、映画では証言者の一人としてしか扱われず、あまり目立たない存在になっていますが、原作ではストーリー上においてかなり重要な役割の人物として登場します。

登場人物の中には、その生死が異なっている者もいます。青沼菊乃は映画では他界している人物として描かれていますが、原作では存命しています。また反対に犬神松子の母親は、映画では存命している人物として登場しますが、原作では他界しています。このように生死が異なっている人物がいながらも、ストーリーの大筋を狂わせることなく、作品としてまとめ上げた映画版の製作陣の実力は素晴らしいものです。

また、殺人事件の詳細部分においても異なる部分があったり、映画版で新たに追加されたシーンなども存在します。全てをここで紹介するわけにもいかないので、映画と原作小説を比べながら楽しんでみるのをおすすめします。

金田一耕助シリーズについて

“日本映画史上最高のミステリー”とも評された映画「犬神家の一族」ですが、このヒットを最初として、後に続いていく金田一耕助シリーズについても触れておきましょう。

市川崑が監督、そして主演を石坂浩二が務めるコンビが定番として“金田一耕助シリーズ”は作られ、多くの映画ファンに愛されてきました。

第一作目は、この1976年10月公開の「犬神家の一族」。第二作目は、1977年4月公開の「悪魔の手毬唄」。ちなみにこの作品から東宝の自主制作となっています。第三作目は、同じく1977年8月公開の「獄門島」。第四作目は、1978年2月公開の「嬢王蜂」。第五作目は、1979年5月公開「病院坂の首縊(くく)りの家」となっています。

昭和の金田一耕助シリーズはここで一旦ストップしますが、2006年12月には第六作目として「犬神家の一族」のリメイク版が公開されました。リメイク版には、石坂浩二が同じく主演の金田一耕助役として出演しており、大滝秀治も同じ役柄で出演しています。

映画はやはり身震いするほど恐ろしい

後に続く金田一耕助シリーズの第一作目として有名な「犬神家の一族」。このタイトル自体も強烈ですが、内容もかなりの衝撃があります。近年では「水面から突き出た足」のシーンがよくお笑いのパロディなどとしてネタに使われたりしていて、若い人の間にも伝わっている印象があります。しかし、実際の映画のシーンを見てみると、やはり笑いにできないほどおぞましく、思わず身震いしてしまうほどです。

平成の映画にはなかなか見られないこうした演出も含めて、また映画を見なおしてみたくなります。

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