ミュージカル映画「マイ・フェア・レディ」を振り返る

                    

「マイ・フェア・レディ」は、1964年に公開されたアメリカのミュージカル映画です。以前より同名のミュージカルが上演されており、それを元にして作られた映画版で、伝説の名女優オードリー・ヘップバーンが主演し、若草物語などでも知られるジョージ・キューカーが監督を務めました。

映画のストーリー概要

ロンドンの花売り娘イライザは、下町育ちのためか荒い言葉遣いが玉にキズ。いつものように花を売り歩いていたところ、たまたま通りすがった言語学のヒギンズ教授と出会い、ひょんなことから言葉の訛りを矯正して淑女になるよう礼儀作法を教わることに。

厳しい指導がありながらも、イライザは徐々に貴婦人としての風格を持つように成長していきます。しかし、ある時にヒギンズが自分を研究対象にしていることを知り、彼の元を去ることを決意。そしてイライザのことをいつの間にか想うようになってヒギンズは…。

舞台版のキャストが映画版にも出演

ミュージカル舞台として上演されていた「マイ・フェア・レディ」ですが、映画の製作側は映画化にあたって550万ドルで権利を買い取ったそうです。

かなり大きな額となったため、製作陣はこの費用を回収するために必ず映画をヒットさせなければなりませんでした。そのため、映画に出演するキャストも慎重に選考していきました。

ミュージカル舞台版のキャストがそのまま映画版に出演しても良いケースがあるのですが、製作陣は単純にミュージカル舞台版のキャストをそのまま出演させることには慎重でした。映画の製作陣はまず、ミュージカル舞台版で主演(イライザ役)をしていたジュリー・アンドリュースの代わりとして、大女優オードリー・ヘップバーンを起用。

そして主要な役となるヒギンズ役としてケーリー・グラントへ出演を依頼します。しかし、本人に「ミュージカル舞台版のレックス・ハリスンがやるべきだと思う」と断られてしまい、結果的にレックスがミュージカル舞台版の役をそのまま引き継ぐことに。また、イライザの父親役には同じくミュージカル舞台版で同役を演じていたスタンリー・ホロウェイが映画版にも出演しています。

このように、ミュージカル舞台版で元から長く役を演じていた俳優もいたことから、とてもクオリティの高い演技を見ることができたのではないでしょうか。しかし、当時の製作陣にしてみればもう少しこだわってキャストを選考したかった気持ちもあったでしょう。結果的に映画は大ヒットとなり、アカデミー賞にも輝くほどの功績を残したので、スタッフたちの判断は正しかったといえます。

オードリー・ヘップバーンの歌は口パク!?

「マイ・フェア・レディ」はミュージカル映画なので、登場人物たちが各々の美しい歌声を披露する場面が多くあります。

もちろん、役者本人たちの歌声であることが一般的ですが、オードリー・ヘップバーンが劇中で披露している歌声は、全くの別人の声であったことはあまり知らない人も多いのではないでしょうか。つまり、彼女の歌声は吹き替えだったのです。

オードリー・ヘップバーンの歌のシーンに関しては、一部の歌い出し部分などを除いてほぼ全てが別人の歌声による吹き替えでした。吹き替えの歌声を担当したのは、“アメリカ最強のゴーストシンガー”といわれた「マーク・ニクソン」という女性。彼女は実は、数々のミュージカル映画の歌声吹き替えを担当しており、各女優特有の発音の仕方や声色までを似せて歌うことに長けていました。

このことから、ハリウッドの業界関係者の間では絶大な支持がありました。しかし、ミュージカル映画における歌声の吹き替えは、当時トップシークレットとして秘密にされていたため、彼女の存在は公にはほとんど知られていませんでした。

当初はオードリー・ヘップバーン自身の歌声による前提で映画を製作しており、本人による歌声の収録もすでに行われていました。しかし、マーク・ニクソンの歌声のほうが美しいと判断した製作陣は、全編において歌声を吹き替えにすることを決定。さすがにオードリー・ヘップバーンも困惑したようですが、マーク・ニクソンの歌声を聴いた彼女はその美しさに納得し、二人で協力して映画を作り上げていくことに専念したそうです。

映画では途中から歌声が差し替えられることになったため、オードリー・ヘップバーンが唄っているシーンをよく見てみると、別人による歌声のため完全にはリップシンク(吹き替えと口の動きを合わせること)がされていないところが見てうかがえます。

せっかくのオードリー・ヘップバーンの歌声でなく残念に思った人もいるかもしれませんが、1996年に日本で発売されたレーザーディスクのスペシャルコレクションには、オードリー・ヘップバーン自身が唄った歌声が収録されており、本来の歌声を楽しむことができました。ちなみに、フレディ役として出演していたジェレミー・ブレットの歌声も実は吹き替えだったことが、後になって本人から明かされています。

永く愛されるミュージカル映画

名作として名高い「サウンド・オブ・ミュージック」や「ウエスト・サイド物語」と並んで、ミュージカル映画の傑作として親しまれ続けている「マイ・フェア・レディ」。大女優オードリー・ヘップバーンの演技も堪能できる素敵な作品です。当時は、この映画で胸を掴まれた人も多いことでしょう。今また見返してみることで、当時の思い出がよみがえってくることもあるかもしれません。

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