収入が減少する定年後に住宅ローンが残っていると、その返済に退職金を使ったり、住居費が余計にかかったり、その結果、老後破産を招くこともあります。定年退職を迎える前に住宅ローンは完済できていることが望ましいですが、そのためにまず、住宅ローンや家計の状況を把握するところからはじめてはいかがでしょう。
今回は老後に必要な経費と現状の家計を計算して、退職後の家計をシミュレーションする方法を紹介します。老後資金が十分にあるかどうかを確認し、必要なら対策を検討しましょう。
老後の住宅費は意外と少ない! 退職後の平均的な家計収支は?
老後の生活費がひと月にいくらになるのか予想できているでしょうか。これから考えようとしている方は、厚生労働省の2018年版家計調査報告(※1)から、高齢者無職世帯の家計収支の平均月額を確認しましょう。
- 高齢夫婦無職世帯
- 実収入 :222,834円
可処分所得:193,743円
消費支出 :235,615円 - 高齢単身無職世帯
- 実収入 :123,325円
可処分所得:110,933円
消費支出 :149,603円(※2)
可処分所得とは、実収入から社会保険料や税金を引いた残りの手取り収入のこと(※3)です。消費支出が可処分所得内に納まっていれば、毎月の家計は黒字ということになります。
高齢夫婦無職世帯と高齢単身無職世帯どちらのケースも、実収入に対して消費支出が多くなっており、貯金を取り崩して生活している様子がうかがえます。また、住居費の月額は高齢夫婦無職世帯で13,625円、高齢単身無職世帯では18,268円と比較的低い平均額です。
住居費が安いにも関わらず、高齢者無職世帯の家計収支は赤字です。この上、住宅ローンが残ってしまうと、さらに家計が苦しくなります。そのような事態を避けるためにも、まずは現状の家計がどうなっているのか把握して、老後に家計が破綻しないかどうかを確認しておきましょう。
現在と退職後の家計をシミュレーションしよう
それでは、現在と退職後の家計をシミュレーションしてみましょう。まずは、現状の年間支出について、家計簿から計算して以下の項目を洗い出しましょう。
- 基本生活費(食費、水道光熱費、通信費、教養娯楽費など)
- 住居関連費(住宅ローン、家賃、管理費、修繕積立金など)
- 車両費(自動車ローン、駐車場代、税金、ガソリン代)
- 教育費(学費、習い事の費用、参考書代など)
- 保険料(生命保険、医療保険、損害保険などの保険料全般)
- その他の支出
次に、現状と退職後の2パターン分、年間の世帯収入を洗い出してください。
- 夫婦の収入(現状:給与や事業収入、退職後:年金)
- 収入から控除する金額(社会保険料、所得税、住民税)
- 可処分所得 = 収入 - 控除金額
ここまでの金額を洗い出せたら、現状と退職後の2パターン分の「家計の収支確認表」を完成させましょう。支出額が可処分所得額の範囲内に納まっていれば良いのですが、そうでない場合、家計は赤字です。退職後の家計が赤字になりそうな場合は、今から対策を考える必要があります。
住宅ローンを完済している場合は、計算結果もかなり変わってくるはずです。住宅ローンを完済したと仮定した場合、家計にどれだけの余裕が出てくるかも確認しておくとよいです。
ちなみに、厚生労働省の2018年版家計調査報告から高齢者夫婦無職世帯の平均収支を上記の項目に当てはめてみましょう。一部、項目が合わない部分は、家計調査報告に合わせて調整しています。
収入内容 | 金額 |
---|---|
実収入(年金など) | 222,335 |
非消費支出(税金と社会保険料) | -29,856 |
可処分所得 | 192,479 |
消費支出内容 | 金額 | |
---|---|---|
基本生活費 | 食費 | 65,319 |
水道光熱費 | 19,905 | |
交通・通信費 | 28,071 | |
家具・家事用品 | 9,385 | |
衣服及び履物 | 6,171 | |
保健医療 | 15,181 | |
交際費 | 25,596 | |
教養娯楽費 | 24,239 | |
住居関連費 | 住宅ローン、家賃、管理費、修繕積立金など | 13,625 |
教育費 | 2 | |
その他雑費 | 21,589 |
住居関連費の平均額は13,625円で、マンションの管理費や修繕積立金も含めた金額です。住宅ローンがこの金額以上残っていると、不足分がますます多くなり、家計が苦しくなることが分かります。
住宅ローンの支払いが厳しそうなら対策を考えよう
退職後に住宅ローンの支払いが難しいと判明した場合、住宅ローンの支払いをどうしていくのか、具体的に検討を始める必要があります。なかなか今の生活を変えることはできないかもしれませんが、老後も安心して暮らすためには、思い切った対策が必要です。
まずは、住宅ローンの残高を退職時点で完済できるかどうかを確認します。最初に退職時点で貯金がいくら貯まっていそうか、予想の金額を計算しましょう。退職時点の貯金額+退職金で、その時の住宅ローン残高が相殺できるかを確認します。
退職金の確認は、定年1年前以降にするという人が全体の3分の2と遅い傾向にあるそうです。しかし、この計算をするためには、早めに退職金の金額を把握しなくてはなりません。そのために、退職金の計算方法について、会社へ事前に確認しておくことにも注意してください。
住宅ローン残高が退職金と貯金でまかなえたとしても、老後の貯えを別に準備できていない場合は、家計の赤字を補填することもできません。
貯金と退職金を老後資金に回したいなら、現状の家計を改革して少しでも住宅ローンの支払いに回すように検討しましょう。検討のヒントは、最初にご紹介した高齢無職世帯の家計にあります。先ほど示した高齢者夫婦無職世帯の平均的な家計と自身の家計を比較して、過剰な出費になっている項目を探し、該当項目の支出を減らすように検討します。
家計のどの項目の支出を減らせばよいのか自分では検討がつかないなら、ファイナンシャルプランナーなど専門家に相談することもお勧めです。ここまで作成した家計収支表と、貯金額・退職金の目安と住宅ローン残高が分かる資料を持っていくと、より具体的なアドバイスをもらえるでしょう。
老後の住宅費は必要最低限に抑えるよう今から準備を!
老後も豊かに生活したいなら、定年後まで住宅ローンを残さないようにすることがポイントです。
定年後も住宅ローンを払い続ける予定で、シミュレーションしてみたら赤字になりそうであれば、定年前に住宅ローンを完済するための具体的な対策を検討し、すぐ実行に移すように進めていきましょう。
「II 総世帯及び単身世帯の家計収支」
「II 総世帯及び単身世帯の家計収支」上記資料19ページより
「初めてでもわかりやすい用語集」