なぜ日本は世界一の長寿国なのか?

WHO(世界保険機構)の統計によれば2001年以降日本は常に長寿国ランキングの上位にランクインし続け、2010年以降はもっともトップにランクされることが多い国になっています。2013年にはスイスに世界一長寿国の座を奪われましたが、2014年には再びトップに返り咲き、2015年も連続してトップに選ばれています。日本が長寿国として「世界ナンバー1」と言う事実にはとても関心があります。

今回は「なぜ日本は世界一の長寿国なのか?」ということをテーマに、日本の長寿の謎に迫っていきます。

日本の長寿は世界的な関心事

日本が世界一の長寿国であることは今や世界中の研究者の関心事であるといっても過言ではないでしょう。
その証拠に日本食や日本式のライフスタイルが研究され先進国で紹介されています。そうした「ジャパン・スタイル」は医療の面だけに限らず、文化や商業の面でもかつてないほどに注目されていると言って良いでしょう。事実、和食が世界文化遺産に登録されたり、毎年日本を訪れる外国人観光客の数が増え続けるなど、世界が日本に向ける関心の高さには驚かされるものがあります。

ただ、正直なところ今回のテーマである「なぜ日本は世界一の長寿国なのか?」についての明確な回答が学術的に解明された訳ではなく、今でも学者の間では研究が進められているというのが現状です。しかしながら、諸外国との比較によってある程度はその答えに近づけるのではないかと感じています。そのためのキーワードは「食文化」と「国民性」、そして「リバランス(再均衡)」です。

和食は本当に健康食?

まず、日本人の長寿の秘訣について、外国人にアンケートをとればまず第一に「日本食」をあげる人が多いのではないかと思われるほど、外国人の間では「和食=ヘルシー」という意識が定着しています。確かに一汁三菜と言われる和食のスタイルは高タンパク低カロリーで一見するとヘルシーですが、長年日本食で指摘され続けているのが「塩分過多」、「動物性タンパク質の不足」、「ミネラル不足(特にカルシウム、亜鉛、鉄分)」です。

事実、日本食だけだった江戸時代の日本人の平均寿命は男女共に40代後半でした。医学の進歩や社会インフラの充実などの要素があるにしても、日本人の平均寿命が急激に伸びたのは1900年代以降ですから、食文化も含めたライフスタイルは純和風よりも欧米化した後だと考えるのが自然です。ただ、和食は低カロリーである上に大豆を加工した食品の割合が多く、高タンパクであると言う点で非常に優れています。

また、発酵技術に関しては世界一だと言われるほど、多様な発酵食文化を持っています。発酵食品には腸内環境を整える乳酸菌や酵母がたくさん含まれている優れた健康食です。更に、刺身や寿司など生で食材を食べるという文化は消化酵素をたくさん補給できるため、体内での代謝酵素の割合を効率的に増やすことが可能な食文化であるともいえます。代謝酵素の合成比率が高いということは、それだけ基礎代謝を高いレベルで維持可能なので、寿命は長くなると考えられます。

したがって、「食文化」から日本の長寿を考えた場合、推測されるのは伝統的な健康食である和食文化に欧米の食文化が加わり、「動物性タンパク質」、「ミネラル」不足が解消され、そこに健康意識の高まりが加わったことで、食文化の「リバランス(再均衡)」がもたらされたことが要因になるのではないかと考えられるのです。

日本人の国民性が長寿の秘訣とは?

外国人に日本人のイメージを問うと「勤勉」「真面目」「時間に正確」「規律正しい」「シャイ」という答えが返ってくるのではないでしょうか。どれもポジティブなイメージですが、ちょっと待ってください。精神的なストレスには全身の血管を収縮させ、様々な健康被害をもたらす作用があります。
こうして日本人の国民性からイメージできるフレーズはどれも「高ストレス」をもたらすものばかりです。
これでは、ちっとも「健康的」や「長寿」には結びつきません。ということは日本人の国民性は寿命を縮める要因になっているのでしょうか?

ここで一旦昔の日本人と今の日本人を比較してみましょう。近代以前の日本で一番世の中が安定していたのは天下泰平とも言われていた江戸時代です。ただし、このころは厳しい身分制度が支配していた君主制時代であり、疫病や飢饉などもあって社会全体を覆っていたストレスは現代とは比較にならないほど大きかったことでしょう。もちろん欧米諸国も同様ですが、陸続きの大陸とは違い四方を海に囲まれた中で独立を維持してきた日本という国は独自の精神文化を構築したと考えられています。それが「許容と忍耐」の精神性です。限られた空間の中で単一民族間で構築される社会構造が長く続くと「同族意識」が強くなり、排他的な風潮が生まれます。

日本が今のように本格的な民主化の道を歩み始めたのは第二次世界大戦後のことですからわずか70年程度のこと。紀元前6世紀の建国以来終戦までの2600年ほどの期間はずっと「君主制(天皇制)国家」だったことになります。(建国の起源には諸説あります)これは日本が世界的に見ても類を見ない「一系君主統治による独立」が維持されていた国であったことを意味しています。君主制国家は民主制国家に比べストレスの強い構造になります。歴史という長い目で見れば敗戦によって今の民主制国家に移行した日本は一気にストレス社会から解放されたことになります。
つまり、日本人に自然に身についている「節度や礼節」、「規律正しい」、「シャイ」、「勤勉さ」という一見ストレスにも思えるものは長きにわたる「一系君主統治による独立」の中で取り込まれ、日本人の国民性を形成する一要素となったため、実際には「ストレスが軽減されている」と考えられます。(その一方で対人関係や家族間のストレスなど別の問題が生まれていることになります)
もう少し平たく言えば欧米人から見ると強いストレスと感じるような事柄は日本人にとってみればストレスと指摘されるまで気づかない当たり前のことだったということです。

今後民主的な国体が維持されることで対人関係や家族間のストレスなどが大きくクローズアップされ、新たなストレスとして重くのしかかってくると、長寿国日本の将来もどうなるかわかりませんが、今のところはこれまで培われてきた国民性が民主化されたことで「リバランス」され長寿に貢献していると言えるのではないでしょうか?

また、もう一点「国民性」という点で見逃せないのが「体格の差」です。今でもスポーツの世界では日本人は体格の小ささが不利に働いてしまうと言われています。しかし、物理的には体が大きくなるとそれを維持するためにはそれだけたくさんのエネルギーが必要となるので、小柄な日本人という「国民性」は代謝効率の面で外国人よりも有利であると言えます。

最後になりますが、「手先が器用」という国民性も日本人の長寿に貢献していると考えます。指先を動かすということは脳に良い刺激をもたらすからです。脳が健全であれば寿命は延びるというのは疑いようのない事実です。日本人の手先の器用さは食事の際にお箸を使うことで養われているという説もあります。ここでも食文化と国民性とが相乗効果を発揮して長寿国日本を支えしていると言えるのではないでしょうか。